NPPVの神経難病患者への導入・維持についての当院での経験

大分協和病院 山本 真

2003年8月1日幕張メッセにて開催された日本呼吸管理学会一般演題での発表内容です。原文のまま提示しているので、やや読みにくいかも知れませんが、NPPVのALSへの適応ということをまとめていますので、皆さんのご参考になるのではと思って提示いたしました。コラムリストにある「気切をいつすべきか」と併せ読まれるとより具体的に理解できると思います。

 

神経難病とくにALSは、比較的短期間で呼吸不全に陥ることが多い疾患ですが、最近では、PCO2が若干上昇する程度の呼吸不全の比較的早期段階で、鼻マスク式のNPPVが試みられることが多くなってきました。気管切開を伴わず、非侵襲的に呼吸補助が行えるため、患者さんの受け入れも比較的容易であります。しかしながら、その導入法や症状増悪への対応などは各施設それぞれの方法で対処しているのが現状であり、一定の教科書的な導入法というのは確立していないのが実態といえます。私どもは5例のALS患者へのNPPVを経験いたしました。1例が一時的適応で、残る4例が現在もNPPVを継続しえております。少数例の経験ではございますが、神経難病患者へのNPPVの導入法や維持法について私見を述べたいと考えます。

スライド1

まず、私たちが呼吸管理を行っている神経難病患者のリストを示します。うち4例が継続的にNPPVを行っている患者であります。

スライド2

このスライドは、現在私たちがNPPVを長期的に行っているALSの4症例であります。右上に表示する女性のみ球麻痺がございます。球麻痺のない3例は、いずれも発声や経口摂取が可能です。また、2例は、気管切開を既に受けており、球麻痺のない1名は鼻マスクで、球麻痺のある1名は経気管カニューレでバイレベルの呼吸補助を、気切後も引き続き実施しております。また、鼻マスクの3名は、常時NPPV対応の患者であります。気管カニューレ経由の1例のみ、主に夜間を中心とした使用となっております。

(スライド3)

次に、これら4例のNPPV経過年数と、設定値を示します。2例が約2年間、2例が約1年間継続中であります。筋力低下の進行などに伴い、設定値を変更したのが2例で、いずれもIPAPを増大させております。EPAPは、2例で機種変更にともない一時4cmを試みましたが、呼吸困難の出現や、酸素飽和度の低下が生じ、2cmに戻してNPPVを継続しております。症例1は、急激に呼吸筋力低下が進行して、PCO2が90torrの状態でNPPVを導入しました。当初、短期使用かと思われましたが、IPAPの引き上げのみで、この2年間継続しえております。この間、四肢筋力は著明に低下が進みました。

(スライド4)

最後に一時的使用となった一例をお示しいたします。急性呼吸不全に対し、フルフェイスマスクにてNPPVをIPAP5〜8cm、EPAP2cmにて行い、呼吸状態の改善を得ることが出来ました。本例はその後気管切開に同意され、現在気切孔より痰の吸引ができるようになり安定したため、自発呼吸での在宅酸素療法に復帰しております。

(スライド5

ALSの呼吸不全は、呼吸筋力低下によって肺活量が30%程度になるころから、動脈血炭酸ガス分圧が上昇するという形で顕在化してまいります。

(スライド6)

この段階でNPPVを導入するとき、IPAPは、高すぎると患者の呼吸と機械が同調せず、ファイティングを発生させます。低すぎると充分な換気が出来ないという問題が生じます。また、肺自体に問題がなく、呼吸筋力低下が病態であるALS患者には、EPAPは2cmでよく、4cmでは、かえって呼吸状態の悪化が認められました。

(スライド7)

ALS患者へのNPPV導入にあたっては、患者の呼吸と同調し、自覚症状や酸素飽和度などが改善する最も低いIPAP値を、ベッドサイドで調整して求める必要があります。呼吸困難を生じて頻呼吸となっている患者には、4〜5cmH2Oのようなかなり低い圧でないと初期適合ができませんでした。常時NPPV対応患者の呼吸筋力低下の進行に対しては、IPAPを段階的に引き上げるのみでよく、EPAPを上げる必要は生じませんでした。これまでの経験のなかで、当初一時的避難と考えられたALS患者へのNPPVでありますが、実はきわめて導入も容易であり、患者自身の満足も得られやすく、かつ長期維持も可能であることがわかりました。

(スライド8)

気管切開を行うタイミングは、筋力低下などに伴って喀痰排出不全が発生するときと言えますが、予防的切開は患者の同意を得ることがなかなか困難でした。これまでNPPVのALS5例中3例に気切移行を経験いたしましたが、うち2例は誤嚥や肺炎、無気肺の発生などが契機となっております。気切移行した3例は現在もNPPVあるいは自発呼吸によるHOTで在宅療養を続けることができております。気管切開下にもNPPVの継続は可能であり、NPPVのもとで喀痰排出不全が生じたら、人工呼吸管理への移行ではないことを患者に説明した上で、気管切開を積極的に行うことが、患者の安全や介護者、看護者の負荷軽減のためにも有効と考えられます。また、気切下人工呼吸管理に比べてNPPVは、痰による気道閉塞などの危険性が高いと考えられますが、鼻マスク式のNPPV管理においても、気管切開とスピーチカニューレの併用によって、発声などのADLを落とすことなく、確実な気管内の喀痰が排除できるため、より安全にNPPVを継続することが可能になります。さらにNPPVが限界に達したときには、気切下人工呼吸管理に速やかに、危険なく移行できるという安全性もあります。

(スライド9)

最後に、EPAPの最低圧が4cmH2Oである機種が、最近出荷されておりますが、神経難病患者への導入には不適切と考えられます。また、常時使用する患者には、NPPV本体に内蔵バッテリーのバックアップがないことが、停電事故の際に危険となります。

(スライド10

私どもは、パソコン用の無停電装置を介して電源をとることで対処しております。この方法によって、電源の切り替えなしに約90分のバックアップが可能となり、その間に外部バッテリーなど他の電源へ切り替える余裕が生まれました。

 

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